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Cinema

薔薇の名前

薔薇の名前 / 1986年フランス・西ドイツ・イタリア

この映画は中世の雰囲気をみごとにつくり出しています。ひとつの世界を作るということがどういうことなのか、この作品は語っていると思います。特に私が魅せられたのは、修道院の写字室のシーンです。写し出された小道具や写本などに、私は釘付けになりました。それらを見ただけで、この監督の異常なほどの美術へのこだわりが伝わってきました。映画はストーリーも大事ですが、見るものですから映像のリアリティから発せられる空気感や臭いのようなものがもっと大切です。SF的なリアリティーを出すよりも、史実にのっとった時代劇のリアリティーを出す方が難しいかもしれません。このような映画は見れば見るほど新しい発見があります。役者に関してはショーン・コネリーも素晴らしいのですが、それ以上にその他の登場人物の個性的なキャラクターがこの映画をいっそう引き立てています。


真珠の耳飾りの少女

真珠の耳飾りの少女 / 2002年イギリス

以前見た“レンブラント”“カラバッジオ”も美しい映画でしたが、それ以上に内容もすばらしい映画でした。特にフェルメールの絵画を検証しながら作ったと思われるアトリエの雰囲気や、顔料の絵の具が並んでいるシーンなどは絵を描く者にとっては大変興味深いものです。そして瓶に入った顔料というものがチューブの絵の具とは別のもののように輝いていて、その中から当時の画家の社会的立場、そして絵を描くことへの崇高さを感じました。以前同じように画家をテーマとした映画を見たのですが、パレットのアップの時2〜3色の絵の具を素早く混ぜるシーンが写りました。監督が手の動きに捕らわれて色を見なかったせいでしょうか、パレットの色がくすんでしまいました。一見ストロークが早いほどうまく見えますがその逆で、特にクラシック絵画はゆったりとしたリズムで色を混ぜ描いてゆくものだと思います。その点この映画ではフェルメールが光を慎重にゆっくりと入れてゆくシーンは、気持ちが伝わってくるようで納得しました。またフェルメールも少女もあまり多くを語らず、少ないことばで心情をうまく表現していたと思います。まさしくフェルメールの絵画のような映画でした。


ロスト・チルドレン

ロスト・チルドレン / 1995年フランス

ジャン・ピエール・ショネは今は“アメリ”の監督として有名ですが、もう何年も前に“ロストチルドレン”を何の知識もないまま見た時にその映像のすばらしさに圧倒されたのを憶えています。全体がダークなセピアグリーンのような渋い色で、建物からは錆びた鉄をイメージするネオゴシックの雰囲気が伝わってきます。カメラワークや色彩感覚など美術が抜群で、それを見るだけでも価値ある映画ですが、登場人物のキャラクターからサーカスのもの寂しさが伝わってきて、その辺が好き嫌いの分かれるところかもしれません。しかしフランスのアーティストにはすばらしい人が多く、“プロスペローの本”という10年以上前に見た映画のCGアーティストがイブ・ランボスというフランス人でした。この映画も造形がすばらしく、クラシックで重厚な雰囲気を作っています。それまでCGは人工的なものだと思っていましたが、この作品を見てCGのイメージが変わりました。


楽園の瑕 (東邪西毒)

楽園の瑕 (東邪西毒) / 1994年香港

初めに見た時にはストーリーはよくわかりませんでしたが、スクリーン全体から醸し出される雰囲気が好きで、見終った後それ以上の何かを感じました。ビデオで見たので何回も繰り返して見ることができ、ストーリーが理解できる頃にはすっかりこの映画にのめり込んでいました。もし映画館で見たならば、私の批評は良いものではなかったかもしれません。これは映画というよりも長編のイメージビデオのような感じがします。ここまで音楽と映像と言葉、そして自然と人間が調和した作品はあまりありません。時代劇だからこそできたのかもしれませんが、役者ひとりひとりの表情がすばらしく、せつなさの中にある美しさがよく表現されています。どの人物も噛み締めるような、ゆったりとしたセリフで発せられる言葉には重みがあり、そして詩的でもあります。


エクスカリバー

エクスカリバー / 1981年イギリス

20代初めの頃、映画館で見たSF映画の中でも印象的だったのが「コナン・ザ・グレート」と、この「エクスカリバー」です。アーノルド・シュワルツネッガーは私の高校時代にはボディビルダーで、その彼が映画に主演するということで大変興味を持ちました。シュワルツネッガーのセリフはあまりなく、それがまたイメージを膨らませていていい雰囲気を作っていました。映画としては「コナン・ザ・グレート」の方が好きなのですが、なぜ今回「エクスカリバー」を選んだかというとこのロバート・ピークが描いたイラストを見ていただきたかったからです。彼が描いた映画のポスターはどれもすばらしく「地獄の黙示録」「ヘアー」「マイフェアレディ」「スタートレック」「スーパーマン」などメジャーな映画を数多く手掛けています。画材は様々ですが、筆で描いた後にパステルで描くことも多いようです。ひとつの絵に何種類かの画材と技法を使っていて色づかいもすばらしく、学生時代私もいろいろと影響を受けました。「エクスカリバー」はアーサー王伝説の映画化ですが、この手の歴史物は昔の作品の方が良いものがたくさんあります。最近はCGを使い過ぎていて臨場感に欠ける映画も多いので少し残念ですね。


釈迦

釈迦(しゃか) / 1961年大映

1961年(昭和36年)制作の作品です。映画というよりも舞台を見ているような感覚になる場面が随所にあり、独特の雰囲気を持ったスケールの大きい作品です。釈迦をテーマとしながら出演者はすべて日本人なのですが、古い映画として見たためでしょうか何の違和感もありませんでした。またそういったところも舞台をイメージさせるのかもしれません。これより他に釈迦の映画はほとんどありません。それは釈迦の表現と役づくりが難しいためではないかと思います。「リトル ブッダ」という映画がありましたが、仏教を題材としたものとしては中途半端な表現に終ったような気がしました。1961年に作られた釈迦は、映像ひとつとってもすばらしく美しい作品です。下から見上げるようなアングルが多く、遠近法をかなり使っていてスケール感を意識的に数多く出しています。また構成などでは悟りを開いてからの釈迦を声と影だけで表現し、そこがまた見る人それぞれのイメージを膨らませているのだと思いました。後にも先にもこの作品以上の釈迦の映画はないと思いますので、2時間30分の長編ですが機会がありましたらぜひご覧ください。見終った後何とも言えない爽快感が残ります。




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